「猫の注射部位肉腫」
多くのご家庭でおうちの猫にワクチン接種をされていることと思います。
しかし皆さんは、定期的に打っているワクチンがしこりの原因となる可能性がわずかながらも存在することをご存知だったでしょうか?
今回ご紹介するのは、ワクチンを接種した部位に遅れて発生し、発生してしまうとその多くが周囲の組織に広がり死に至らしめることまであるとても厄介な悪性腫瘍になります。
<猫の注射部位肉腫とは?>
ワクチンを接種した部位に発生するしこりのことを“注射部位肉腫”と呼びます。
猫におけるこの注射部位肉腫は、もともと猫白血病ウイルスに対する不活化ワクチンなどに含まれるアジュバントが原因ではないかと考えられていました。
アジュバントとはワクチンの効果を高めるために含まれている化学物質です。
そのため、この病気はワクチン接種と関係があるということで以前は“ワクチン関連肉腫”とも呼ばれていました。
しかし近年、調査が進むにつれてアジュバントを含まないワクチンでも注射部位肉腫が発生すること、さらにはワクチン以外の注射であってもこの腫瘍が発生することが明らかになってきました。
さまざまな注射薬が原因となりうるということ、あるいは注射に伴う刺激そのものが腫瘍発生のきっかけになる可能性があると現在では考えられています。
猫の注射部位肉腫の発生頻度としては1万頭あたり1〜2頭ほどで、決して発生する確率は高くありません。
ただ、この注射部位肉腫は一度できてしまうと周りの組織に広がる力がものすごく強いため、周囲を破壊しながら巨大化していきます。
本腫瘍の治療は腫瘍を含めて広範囲に外科的な切除を実施するか、あるいは専門の動物病院にて放射線治療を受けるかのどちらかが主な選択肢になります。
それでも注射部位肉腫は成長する速度がものすごく早いケースが存在するため、発生してしまった場合いかに早い段階でそのしこりの存在に気づくことができるかが勝負になります。
<猫の注射部位肉腫を早い段階で発見するには?>
この注射部位肉腫の特徴は、ワクチンをはじめとする皮下注射および筋肉内注射を実施した部位にしこりが発生するということです。
そのため、以下のいずれかのポイントを満たすものが注射部位肉腫を疑うしこりになります。
・ワクチンおよびそのほかの薬剤を注射後、1ヶ月以上経過してもだんだんと大きくなり続けているしこり
・注射を受けてから3ヶ月経過しても存在するしこり
・しこりの大きさが直径2cmを越えているもの など
過去に同部位に注射を打ったことが明らかであり、これらのうちどれか1つの項目でも満たす場合には獣医師は注射部位肉腫の可能性を含めて検査していきます。
そこで大切になるのが、ご自宅で注射を打った猫の皮膚を定期的に確認しておくことです。
発見が遅れてしまうと大がかりな手術や全身麻酔を何度も必要とする放射線治療を行わなければならず、これらの治療によっても根治できないケースが少なくありません。
だからこそ、猫がワクチンや何らかの注射を受けた後は、1〜2週間に1度接種部位を触ってみましょう。
注射を受けてすぐは小さなしこりがあるかもしれませんが、通常は1ヶ月もすれば消えて触れなくなるはずです。
1ヶ月経ってもしこりが触れる場合にはだんだんと大きくなっているか確認してみましょう。
明らかに大きくなっているようであれば一度動物病院へ相談し、大きくなっているかはっきりしない場合は同じペースでしこりのチェックを続けましょう。
注射から3ヶ月経過してもしこりが触れる場合には遅くともその時点で動物病院を受診してください。
<まとめ>
猫にとっても健康な生活を送る上で、ワクチンをはじめとしてさまざまな注射が必要になります。
しかし注射に伴い稀に注射部位肉腫が発生する可能性があります。
これは放置すると危険な悪性腫瘍で、早期発見が大切です。
ご自宅でスキンシップがてら注射を受けたあたりの皮膚を触ってみる習慣をつけると良いかも知れません。